歌画集『花やゆうれい』
- naokomachida
- 18 時間前
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佐藤弓生さんの短歌とわたしの絵で構成された
歌画集『花やゆうれい』が出版されます。
書店に入荷されるとしたら
10/22以降になると思います。
佐藤弓生さんと初めてお会いしたのは、
『冥』(2012刊)という雑誌の連載時。
俳句、短歌、詩の一節を元に佐藤さんが短編を書き下ろし、
わたしが挿絵を描くという連載だった。
この連載を通じてわかったことは、
わたしにとって、
俳句は短すぎる(言葉が少なすぎる)
詩は長すぎる(言葉が多すぎる)
短歌はちょうど良い、
ということ。
連載自体は長く続かなかったのだけど、
その時頂いた短歌集を読んで
佐藤さんの短歌の世界に心惹かれていった。
2015年にギャラリーハウスマヤで個展をする際に、
佐藤さんの短歌で絵を描いてみたいと思った。
佐藤さんにご了承を得て、
全ての作品のタイトルを
佐藤さんの短歌とした。
佐藤さんの短歌があれば
いくらでも絵が描ける、
とその時思った。
この時の個展で描いた絵を一点、
画集『隙あらば猫』(2022刊)に掲載するにあたり
佐藤さんにご連絡をしたのが2021だったか’22だったか。
完成した画集をお送りしたところ、
2022年10月号の『短歌研究』という雑誌に
「隙間の向こうーー町田尚子画集『隙あらば猫』によせて」
というタイトルで20首の短歌を
佐藤さんが発表してくださった。
その中からいくつかの短歌を
2023年ウレシカでの個展の時に
絵とともに掲示させてもらい、
個展タイトルを『隙間の向こう』とした。
雑誌『さがるまーたVol.2』(2024刊)で
何か作品を掲載出来ないかという依頼をいただいた時に、
「佐藤弓生さんの短歌と町田尚子の絵」
でやりたいと伝えた。
時を同じくして、
『ねこはるすばん』『どすこいみいちゃんパンやさん』の
担当編集者から、
短歌と絵の歌画集を打診された。
ウレシカでの個展を見て、思いついてくれたらしい。
画集というのは、
よっぽど人気のあるアーティストでない限り
出版社的に得がない商品なのだけど、
思いがけず『ねこるす』が売れたので
そのご褒美的な部分もちょっとあるのかなと思う。
『ねこるす』様様のラッキーな画集だ。
この歌画集に収録される短歌のほとんどは、
『短歌研究』に掲載されたものや、
他誌で発表されたもので、
その中に 花やゆうれい と題された15首の短歌があった。
“花やゆうれい”というタイトルと
そこに連なる短歌が、
自分が描いている絵の空気感と重なる気がした。
わたしが初めて貧血になったのは、
小学一年生の朝礼の時。
意識が朦朧としてきて、
だんだん音が遠のいて、
目の前の景色が薄いレモン色の光に包まれていった。
蒸し暑くて気持ち悪いのと同時に、
冷んやりとした風が気持ちよかった。
当時は貧血という症状を知らなかったので、
自分がどうなってしまうのかという不安と
夢見心地の多幸感が入り混じった不思議な体験だった。
その時の気持ちと冷んやりした風を
佐藤さんの短歌に感じるのだ。
(全然伝わらないと思うけど)
絵の描き方としては、
一首読んで、その一首にじっくり向き合って
一枚の絵を描きあげる、というわけではない。
全体から感じるイメージを心に染み込ませて、
短歌自体は一旦忘れる。
そして、自分の中に残ったイメージ(残像/感覚)を絵にする。
……という感じなので、
短歌そのものズバリを絵にしてるわけではない。
絵は絵で好きに描いてしまって、
組み合わせる短歌を後から決めたものもたくさんある。
でも、わたしとしては、
佐藤さんの短歌と自分の絵に
共通の空気感を感じているので、
どれとどれを組み合わせても
しっくりくるような気がした。
絵を描いてるうちに、
この絵にはあの短歌だなと
決まっていった組み合わせもあるし、
わたしが描き下ろした絵を見て
佐藤さんが新たに短歌を詠んでくれたという
贅沢なページもある。
全ての絵を描き終わって
編集部に持っていった時に、
表紙は表紙用に描いた絵の方がいいんだけど〜
と編集者に言われた。
え〜、今から〜、、、と正直げんなりした。
だいたい、本のタイトルはまだ決まっていなかった。
版元的には、“猫”かあるいは猫を想起させる
タイトルを希望していたようだけど、
わたしは『花やゆうれい』がいいと思っていた。
表紙として描きおろすなら、
『花やゆうれい』で描こうと思った。
名もなき、だなんて言っても誰も名を知らないだけの花やゆうれい
先にも書いたように、それまでは
全体のイメージで描いていたのだけど、
この時はこの一首に向き合うことにした。
一首決めうちで絵を描くのはなかなか難しい。
その時に見えてきたイメージと、
重なる一枚の写真があった。
それは、
フォトジャーナリストの安田菜津紀さんが
撮った写真だった。
Dialogue for People(D4P)より
上記のMVに使われている
東日本大震災の被災地である陸前高田の
ブルーグリーンのタイルの階段と
そこに備えられた花束の写真が、
佐藤弓生さんの短歌を読んだ時の気持ちに
スーッと重なった。
この写真の場所は、
安田さんのパートナーの佐藤慧さんのご両親が
暮らしていた県立高田病院官舎の跡地だそう。
そんな大切な場所を描かせていただけたことに感謝します。
津波の被害に遭われた大勢の名もなき人々、ではなく、
一人一人が誰かの愛おしい人であることに想いを馳せ、
小さなお花を手向けるように描きました。
歌画集『花やゆうれい』
佐藤弓生 短歌
町田尚子 画
ブックデザイン 大路浩実
ほるぷ出版
2500円+税(税込2750円)
※猫の絵が多いだけで、“猫の短歌集”ではありません。

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